<よりぬき>rennyの備忘録

投信ブログ「rennyの備忘録」の<よりぬき>を試験的に。過去、沢山のアクセスを頂戴したエントリを気ままにPick UP!

今年を振り返って(バイオベンチャーのIPOについて)

今年も早いもので師走も半ばを過ぎてしまいました。 最近はプライベートでの投資の話がほとんどでしたが一年の最後に仕事関係のエントリを1本書いておこうと思います。 仕事絡みということで書こうと考えた際、テーマはすぐに「バイオベンチャーIPO」と思い浮かんだのですが、色々考えることがあってまとまりを付けるのが難しくなってしまいました。(なお、シェアーズさんのサイトでrenny=ベンチャーキャピタリストとご紹介されていますが、ボクは真正なキャピタリストではありません。あしからず。) そこで、まず今年一年の動きを整理することから始めたいと思います。一番のトピックは、バイオベンチャーIPOがほぼゼロだったということです。こちらのサイトでは、健康食品が事業の基礎になっているファーマフーズや医薬品開発支援の応用医学研究所がバイオ銘柄として今年加えられていますが、バリバリのバイオベンチャーと言うには個人的には違和感のある会社です。バリバリのバイオベンチャーというと、やはり創薬ベンチャーが思い浮かびます。そう、AMGEN、Genentechを目指すようなベンチャーです。 日本にも創薬ベンチャーに該当する企業が株式公開しているわけですが、ここ最近少し評価を回復しつつあるものの、この1年間、時価総額は右肩下がりだったことがうかがえます。確かに昨年末はライブドアも健在で新興企業の株式取引が活況そのものだったわけですから、致し方無い面もあるかとは思います。しかし、環境の変化はあったもののIPOそのものはミクシィなどの銘柄が話題になるなどそれなりに活況でした。にもかかわらず、バイオベンチャーIPOがほぼゼロだった、というのはどういうことでしょうか。この原因はどこにあるのでしょうか。 個人的な見解ですが、原因は東証が設定したバイオベンチャー上場のためのガイドラインなるものだ、と考えています。このガイドラインとは、創薬ベンチャーが上場するために望ましいとする要件のことです。
1.最も開発が先行している開発品について、臨床治験(つまり患者さんを対象にした試験)でProof-Of-Concept(つまり所期の効果が得られていること)を得ていること。
2.最も開発が先行している開発品について、将来の認可取得時に製造・販売までのバリューチェーンが確立していること。(これは開発中の製品が認可を受けた後に製造・販売を担うパートナー=多くは製薬企業がいるか、ということ)
3.望ましくは、複数の開発品を持っていること。
4.(これはバイオだけでなく全ての上場企業に該当するわけですが)年間の売上が1億円以上。

このガイドライン、バイオベンチャーにとっては非常に厳しいハードルです。こうしたガイドラインが設定された背景には、バイオベンチャーは開発リスクが高い故にある程度の基準を設けて投資家保護すべきではないか、という取引市場側の意識がうかがえます。「公開が近い」と言われていたバイオベンチャーもこの基準を満たすために苦闘しているようです。

ところで、この基準を満たすためには多額の資金が必要になります。近年その必要額の上昇ムードに拍車が掛かっています。この必要資金はどこから調達してくるのでしょうか。創薬ベンチャーは普通経常的な売上がありません。つまり、費用がドンドン出て行くばかりで収入が発生するのは遥か先のことです。したがって、資金は主にベンチャーキャピタルから調達します。最近では数多くのベンチャーキャピタル創薬ベンチャーへの投資に取り組んでいますのでベンチャー1社が累積で数十億円規模を調達する例も出てきています。しかし、今回のガイドラインが出来て以来、こうした大規模な資金調達が難しくなったのではないか、と思われます。というのも、今回のガイドラインは株式公開までの時間が以前に比べ長くなるようなものです。創薬ベンチャーに投資しているベンチャーキャピタルの資金の多くは、彼らが運用するファンドがその資金の出所です。これらのファンドには通常10年の満期が設定されており、投資から回収までの期間が予め存在しています。
今回のガイドラインは、株式市場に参加する投資家保護の面が強くベンチャーキャピタルの投資意欲を削いでいる面がある、ということです。その結果、未上場の創薬ベンチャー企業の一部が苦しい立場に追いやられていることが想像されます。当然、新たなベンチャー起業にも影響が及んでいることでしょう。全くの新規の医薬品候補の場合、このガイドラインを満たすまでに10年近くかかるケースも十分あるわけで、そのような製品の開発に取り組むベンチャー企業にはベンチャーキャピタルが投資しづらいのは明らかです。ユニークなアイデアベンチャーにおいて研究開発される機会が失われている面があると言っても良いかもしれません。医薬品・医療用具の世界は欧米勢との熾烈な研究開発競争に晒されているわけですが、日本発の世界的に競争力有る製品を送り出すには、マイナスになっているのではないでしょうか。

株式市場を資金調達の場として考えれば、市場はイノベーションをサポートする場所であるはずです。事実、米国では上場しているバイオベンチャーの多くが株式公開後も開発の進捗にあわせて積極的に市場から資金調達をしています。
株式市場の入口においての一律の開発の進捗のガイドラインよりも、情報開示などを徹底させるかわりにバイオベンチャーの株式公開を促し市場で育成する、という発想へと転換すべき、と考えます。

以上はあくまでもバイオベンチャー投資に関わる人間のポジショントーク、独り言です。

来年創薬ベンチャーは何社くらい株式公開できるのでしょうか。